イタルデザインを退所した後、サンティッロはイタリアの大手2輪車メーカー(ピアッジョ)や、メルセデスベンツのデザインセンターで働いた。その後もトヨタ自動車本社に呼ばれたことをきっかけに来日。続いてホンダに籍を置くなどしている。
常に新しい取り組みに挑むのが好きな男なのだろうか、とにかく移籍が多い。これまで日欧の名だたる企業でのデザイナーという、他の同業者が羨みそうなポストを手に入れてきたにもかかわらず、である。
現在は鎌倉市に自らのデザイン事務所を開業した。日本人の妻との間に子供にも恵まれ、家族と共に暮らし、そこでカフェも経営している。
そのサンティッロが次に選んだチャレンジが、ロードバイクのデザイン革命。 そのためにまだ日も浅い昨年12月に、自身の名を冠したオリジナルブランド “Santillo Cicli”を興し、第一弾SANTILLO RB-01をリリースした。鎌倉のカフェは同ブランドのショールームを兼ねている。
まずは、このバイクの横から眺めてみる。
フォークブレード先端から、トップチューブ、シートステイのリアエンドまで絶え間なく続くエルゴノミックなラインがフレームデザイン全体のプロファイルを構成している。 これは、獲物を狙うチーターが、引き締まった四肢で躍動的に大地を駆ける姿をモチーフにしていると言う。それゆえ、このバイクの前面ヘッドチューブのエンブレムには、サンティッロにゆかりのあるマゼラーティのアイコンでもあるトリデンテ(三つまたの鉾)と共に、チーターの顔があしらわれている理由だ。SANTILLO RB-01はこれまでに見たことのない、実に個性的なデザインで、まるでモーターショー会場で、ターンテーブルの上で綺羅やかにスポットライトを浴びるコンセプトカーのように未来を感じさせてくれる。
一般的にロードバイクのフレームはUCI(国際自転車競技連盟)が定める様々な寸法や、位置などの規定に則って設計される。言ってみれば、世界に幾多とあるメーカーの製品も、このUCI規定に準じていれば、どれでもさほど変わりばえのしない“自転車然”としたものになってしまう。 この規定を無視して作られた、個性的なデザインをした自転車も存在はしているものの、これらは、正式な自転車競技の機材としては認められていない。
一方でSANTILLO RB-01はこのUCI規定をクリアしている。つまり、このバイクがツール・ド・フランスを走ることだって夢じゃない。
「規定により制限された枠の中で、自転車に真の“デザイン”をもたらし、革命を起こす」
これが、デザイナー、フランチェスコ・サンティッロが自らに課した挑戦だ。
一般的に、デザイナーとエンジニアの共同作業、時には双方のエゴのぶつかり合い、折り合いによって成立している自動車の製作プロジェクトと異なり、自転車、特に競技機材たるロードバイクにおいてはエンジニアありきで、デザイナーが介入する余地はそこに存在しないに等しい。ロードバイクにおけるデザインとはすなわち、ペイントやそのグラフィックを意味するに過ぎないのだ。
マスプロダクションが支配するビジネスモデルで、その悪しき結果ゆえに行き詰まり感をぬぐえずにこれまで来ている自転車業界において、自転車職人によるハンドメイドバイクに再びスポットが当たるなど、変化が望まれるマーケットに、デザインという観点から一石を投じようとするサンティッロ・フランチェスコの試みにこれから注目したい。
なお、SANTILLO RB-01はモノコック製法のカーボンで、パートナーシップを結んだ台湾の有力メーカーが生産している。